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探検家、40歳の事情ほか [本]

最近読んだ本です。

探検家、40歳の事情 (Sports graphic Number books)

探検家、40歳の事情 (Sports graphic Number books)

  • 作者: 角幡 唯介
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: 単行本

結婚して子供ができて4年前にエッセイを出したときとは、また状況も変わっている角幡さん。奥さんやお子さんのことがちらちらとでてきて楽しかったです。「指輪をはずすくらいなら凍傷になって指がなくなったほうがいいわ」みたいな奥さんのセリフは何だか凄い!の一言。でもそれくらいじゃなければ冒険家の奥さんなんて務まりませんね、と思いました。北極での牛を殺してその牛の写真が全く開けない牛の怨念の話とか、北極圏で牛やらウサギやら鳥のようなものを食べてるから体臭がすごくなって帰国の度に奥さんから毎回「野生のニオイ」と言われる話とか、小さい時から忘れ物が酷く、冒険している間も結構忘れ物をするということや(それでも知恵を使って何とか乗り切ってしまうのがすごいです)また若き日のマラリアの思い出など、旅のこぼれ話的なこのシリーズ(「探検家、36歳の憂鬱」に続く本)はこれからももっと読みたいと思いました。

TRANSIT(トランジット)18号  美しきチベットの未来 (講談社MOOK)

TRANSIT(トランジット)18号? 美しきチベットの未来 (講談社MOOK)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/09/14
  • メディア: ムック

このシリーズは他にもアンデス、ヒマラヤ、インド、メキシコ、タイ、イギリス、イタリア、中国など出していて、ほかもちょっと覗いてみたいと思いました。チベット好きな私としてはたまにこういう本を見ると楽しくなってきます。

ふなふな船橋

ふなふな船橋

  • 作者: 吉本ばなな
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/10/07
  • メディア: 単行本

15歳で両親の離婚。叔母と一緒に船橋で暮らすようになった花。何よりも本が好きでふなっしーが好きでいつもふなっしーに支えれられて来た。花と同じような花子という女の子が亡くなって花は夢の中で花子と対話をする。そしてそれがまたこの現実世界と繋がって、色んなことを知っていく花。その間恋人と別れてもう一度復縁の話になったとき、もうすでに自分の歩むべき道はこの恋人とはないことに気づく花。

いつものばななワールドで心がふんわり温かく、そして優しい気持ちになれる小説でした。夢とのつながりが現実世界に投影され、私はその手の話が大好きなので余計に楽しく読めました。また仕事で時々行く船橋が舞台だったので、その雰囲気とかわかって余計にいい。そういえばいつだったか船橋に仕事で行ったとき、アランとサヘルのテレビ取材が駅のコンコースであって、皆スマホで彼らの写真をパチパチ撮っていたのを思い出しました。アランもサヘルもテレビで見るより小さくて細かった。そして太宰治が定宿にしていた旅館が船橋にあるとかで、そこへ今度はちょっと行ってみたいと思いました。あとは川村美術館。ロスコの真っ赤な絵、確かに強烈な印象で私の中にも残っているなあと思いました。川村美術館はすごく素敵な美術館だったのでまた出かけてみたいです。

「ふなふなふなっしー♪」(こんな歌があるのか)に素敵な言葉が並んでいて、この本の冒頭に載っていたので記しておきます。

投げられたっても蹴られたっても また立ち上がればいいなっしー♪

誰に相手にされなくっても 自分の道を進めなっしー♪

どんなに汚れてしまったっても 君さえ笑えばいいなっしー♪

君が悲しんでいる時は すぐに笑顔にさせるなっしー♪

下北沢について

下北沢について

  • 作者: 吉本 ばなな
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/09/23
  • メディア: 単行本

吉本ばななのエッセイ。特に下北沢の思い出について。子供が生まれての生活や、下北沢にあるお店のこと、ご近所さんのことなど。下北沢には個人的にはそれほど足を運んだことがないけれど(本多劇場で劇団東京ヴォードヴィルショーの劇とか、島田歌穂さんの音楽劇とか、沖縄出身の人たちが出るショーを観に行ったことがあるくらい)、街自体としては何となく可愛らしくて好きな街だなあと思っています。売れっ子になって知名度も上がり、ある程度の収入が入っても、それでも必死になって書いていた吉本ばなな。傍から見たらとっても羨ましい存在ではあるけれど、やはりそれなりの努力もあるし、色んな困難もあるし、どんな人でも人生にはいろいろあるんだなと思いました。



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村上春樹とイラストレーター ほか [本]

最近読んでた本です。

村上春樹とイラストレーター -佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸-

村上春樹とイラストレーター -佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸-

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: ナナロク社
  • 発売日: 2016/07/03
  • メディア: 単行本

村上春樹の本を彩ったイラストの数々が載っている本で、芸術の秋にピッタリの本でした。村上春樹ファンなら結構楽しめると思います。佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸の4人のイラストが、懐かしくもほのぼのとしました。特に私は「羊をめぐる冒険」から春樹ワールドの虜になったので、この本の羊男を描いた佐々木マキのイラストが大好き。羊男の絵本とかも懐かしく思いました。また何といっても安西水丸が圧倒的に村上春樹と組んでたくさんのイラストを描いてきたので、そして本当に可愛らしい絵なので、見ているだけで楽しい気分になる。イラストレーターのそれぞれの思いや、対談なんかも書かれてある本でした。

奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」

奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」

  • 作者: ジョン ガイガー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 単行本

角幡唯介の本の中でも度々出てくるこの本のことや、いわゆる「サードマン現象」のこと。今回やっと読んでみました。探検家の多くが生命のぎりぎりのところで生きていた時、しばしば「サードマン現象」が起こると言われています。いるはずのない第三者がすぐそこにいる、というのです。海に出て遭難した7人の乗組員が人数を数えたら8人いたとか、自分一人で骨折し凍傷になりながら下山する時、確かに自分に寄り添って一緒に下山し的確なアドバイスのようなものをもらえたとか、それはそれは多くの人たちが体験しているサードマン現象。日常生活においても医学部に入るための勉強を猛烈に行い、ほとんど寝ていず、夢の中でも勉強するくらいに根を詰めてやっていた時、サードマン現象を体験したと著者の友人がまえがきにも書いています。

脳のある特定部を刺激すれば同じようにサードマン現象を作れるという実験が行われたり、それは守護天使であるとか、幽霊ではないか、あるいは極度の疲労に苦痛、欠乏があったとき、あるいは単調さと隔離、できれば一人という条件にストレスが加わったときなどサードマン現象が起こりやすいといっています。それは激しい体力消耗や単調さで感覚上の幻影や幻覚ではないか、そして血糖の濃度低下や高所脳浮腫、低温ストレスのよる症状ではないか、あるいは窮地に立たされた人しか使えない普段は隠された力を引き出すもの(心理学では補完的存在というらしい)なのか、依然として謎ですが、たくさんの経験談も書かれていてとても面白いと思いました。

何よりこのサードマンは皆、好意的で、時に予言めいたものまでしてくれ、いい方向に導いてくれ、出会った人は皆全く怖くはなかったと言います。

腕を切ってしまったのにまだ腕があると思ってしまう幻肢体験や、金縛り体験にも似通ったことかも知れません。体が疲れているのにもう起きないといけないと思って起きれないときに、私は良く金縛りになっていました。特に学生の時、夏休みで水泳を思いっきりした後、昼寝していた時は特に。こういう本は本当に興味深く大好きな種類の本だなあと思いました。

そういえば角幡さん、先日たまたま見たNHKで取材を受けていました。北極圏への単独冒険に出かける何日か前の様子の取材だったのですが、自分でチョコレートときな粉とごま(だったかな?)を入れた高カロリーですぐに食べることのできる食べ物を自宅で作っていました。GSPなどの文明の利器を使うことなく、六分儀という天体の位置によって自分の位置を割り出すものを使って冒険をするとのことで、今ごろ、これを使いながら冒険の真っ最中だろうなと思います。可愛らしい奥さんとお子さんのためにも無事に戻って、わたしたち読者をまた楽しませてほしいなあと思います。それにしても縁あるものとか人には、たまたまかけるテレビでもこうして出会ってしまうのが、やはり楽しいなと思った出来事でした。

海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート 30 (角川文庫)

海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート 30 (角川文庫)

  • 作者: 銀色 夏生
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 文庫



2016年の1月から6月までのつれづれ。今回は、ベトナム(フエやホイアンなど)ニュージーランド(ワイタハ族のセレモニー)、スリランカ(仏像と寺院巡り)、ベトナム(再びのホイアン)、インドラダック(アンズの桃源郷)の旅行記と、ジムでの運動、英語の短期授業、宮崎に戻って温泉に入り、整理整頓に火がつき、ものを片付けたり、アロマに凝ったりの日々。

個人的には旅行ではニュージーランドとインドは私も行っているので雰囲気はわかったけど、ニュージーランドの彼女の旅は結構スピリチュアルな旅だったので、ちょっと知らない世界だったので面白かった。インドラダックは、だいたい彼女と観てきてるものは一緒かなあと思ったけれど、私自身は全部個人で廻りしかも長期なので(ニュージーランドも2か月くらい、インドに至ってはラダックだけで1か月、他のインドの地域も含めると一番長くいたときで半年、他にも3か月とか、2か月とかいろいろなので)彼女が半年の間によくもまあこんなにいろんなところに、一つの国に1週間くらいで行っているというのが何となくもったいないかなと思ってしまいました。でも思い立ってすぐに実行できるというのは、やはり恵まれていて、自由を手に入れている彼女ならではなんだなあと感心してしまいます。こんなにも時間的にも金銭的にも周りの状況に自由にあるのは羨ましい。

彼女のこのつれづれに期待するのは、普通の日常生活なんだなあと今回のこのつれづれを読んで強く思いました。でも彼女の感じ方、物の見方など共感したりホッとすることが多く、やはり新刊が出るたびにワクワクして読む本の一冊です。

そういえばこの本ではシンクロがあり楽しかったです。彼女が出会ったおばあちゃんが、「60歳の時は楽しかった、70歳はもっと楽しいはず」みたいなことを言っている文章があったのですが、つい先日新聞で見た記事に「65歳から75歳までは至福の時よ」と言われたと読者の方の投稿記事を目にしたばかりだったし、また「100歳の世界」というつい先日観たテレビ番組では、100歳以上生きているお年寄りが身体能力も何もかもが劣ってきているにも関わらず「今が一番幸せ」と言っているというのを観て長生きするのも悪くないかも、100歳まで生きてその境地を覗いてみたいと思ったばかりだったでした。つれづれノートはやはり、私にとっては読むべき本なんだなあと思ったのでした。


おまけ: 

1か月以上もブログ更新せずにいました。特に理由はないのですが、書く気分になれなかったというのが一番です。かなりストレスが溜まっていて、そのストレスを発散させる手段に有効だというちょっとした運動を再開し、またマインドフルネス=いまここにいる、気づき(瞑想、呼吸法)も再開させました。本当は日記もつけるといいらしいので、時々気が向いたら書いてます。こんなことは若い時バックパッカーをして世界旅行していたときは普通にやっていたことでした。そしてストレスの発散の仕方も良く知っているし、自分ではそういうことのコントロールがとってもうまいと思っていたのですが、どうもそうではなかったようです。

既に旅行中に学んでいて知っていたのに、すっかり忘れていた自分がちょっとショックでした。でもそこは昔取った杵柄とばかり、やり始めると楽しくなってます。皆さん、運動+マインドフルネス+日記はすごくいいです。ストレス軽減にお勧めです。特にマインドフルネスは、ストレスを軽減するだけでなく、睡眠の質も高まり(たった10分ほどの瞑想で2時間ほどのレム睡眠に匹敵するらしい)記憶力、集中力もアップします。海馬も大きくなるとか。お勧めです。


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漂流 [本]

漂流(角幡唯介著)を読みました。

漂流

漂流

  • 作者: 角幡 唯介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/08/26
  • メディア: 単行本

この本は小説新潮に連載された「ある鮪漁師の漂流」をまとめ「漂流」とタイトルを変更して本になりました。1994年2月に沖縄の漁船第一保栄丸の船長本村実と8人のフィリピン人乗組員が行方不明となり、3月に入って救命筏で漂流した全員がフィリピンの漁師たちに発見され全員無事であったという記事を手掛かりに、角幡が元新聞記者の本領発揮とばかりに様々な取材を行い、鮪漁師という生き方にスポットを当てています。

漂流の末、生き残った船長の本村に話を聞こうと沖縄まで出向く訳ですが、初っ端から出端をくじかれます。本村の奥さんの話では本村船長は助かったあと8年のブランクのあと海に出て、それからまた戻っていないと知らされるのです。

沖縄の宮古島のすぐ近くにある伊良部島の佐良浜出身の本村実の育った環境や、マグロ漁全盛の時代、ダイナマイトをしかけての沈船の解体やダイナマイトでの漁などその背景が示されます。実際に当時本村船長と一緒に乗っていたフィリピンの船員が今もなお現役で仕事をしていることもわかり、船会社の好意でグアムから漁船に乗せもらいもします。そこでフィリピンの船員に話を聞くことは勿論ですが、フィリピンにも行って残りの船員たちにも話を聞きます。

人間が生命にかかわる極限状態を体験したときに、「サードマン現象」の報告がいろんな場面でされているようですが、ここで漂流したフィリピンの乗組員の一人も何度も少女の幻影を見て、自分たちが助かることがわかったと証言していて面白いなあと思いました。

また漁師たちは漁に出てはたくさんのお金を稼ぎ、陸に戻るとそのお金で飲めや歌えの宴会が半端なく、また港には大判振る舞いで買った女性たちがいて、最後には一銭も残らないような派手な生活をしていることも良くわかり、また船を持って経営することも大きな稼ぎになる時もあれば時に大きなリスクを背負っていることも良くわかり、この本には単なる漂流の話にとどまらない漁師たちの生き様や漁業そのものがわかる本でした。実に読みごたえがあり、しかも全く飽きさせることのない文章でグイグイ引き込まれました。やっぱり彼の本は面白いと思いました。

死が隣り合わせにある世界に角幡はとっても興味があるらしい。確かに生きていると実感できるのはそういうことかもしれないというのも何となく理解できます。でもどうかあまり危険な場所に足を踏み入れてそれに飲み込まれないように、そして長く読者を楽しませてくださいと思ってしまいます。


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水源 [本]

水源(アイン・ランド著)を読みました。

水源―The Fountainhead

水源―The Fountainhead

  • 作者: アイン・ランド
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2004/07/08
  • メディア: 単行本

NHKの実践ビジネス英語を普段聞いているのですが、その講師である杉田敏先生が何年か前のテキストに「アイン・ランドの本にとても影響を受けた」と書いてあるのを読みずっと読みたいなあと思っていました。

ちょっと古いデータですが、1998年のアメリカ出版社のランダムハウスが実施した20世紀の小説ベスト100の1位、2位、7位、8位をこのアイン・ランドの本が占め、2位にこの「水源」が入っています。(ちなみに1位は「肩をすくめるアトラス」)アメリカの教養ある人なら誰しもアイン・ランドの本を読んでいて、彼女のその本はいろんな人に影響を及ぼし、アイン・ランドを熱狂的に愛している人たちもかなりいるとのことです。

さて、1000ページ以上もある「水源」の感想ですが…。

久々の長編小説。まずは面白かったです。

建築家ハワード・ロークの信念を貫いた生き様を描く物語であり、そこには恋愛物語もあり(でもかなりロークとドミニクの恋は不可解でしたけれど)、ある種の思想が書かれていて、物語もいろんな展開をするので結構楽しく読み終えることができました。

自己中心主義者であるか、あるいはセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)であるか?これが主要なテーマでもありました。

ロークは自分の信念を曲げずそのため、世間の風当たりをまともに受けてしまいうまく立ち回れません。大学は中退になり、師事した建築家ヘンリー・キャメロンはそのあまりの独創性を世間に認められずかなり落ち目です。それでもキャメロンに師事し続けます。そして友人キーティングの誘いにも乗らず、生活を安定させる道を歩みません。そして工事現場で働くようなこともします。でも最後には信念を貫いたおかげで、全てのものを手にするのです。彼が法廷で語っている言葉を借りれば、彼は自己中心主義者の仲間の部類に入る人間です。

一方、そんなロークに比べ、絶えず優等生で周りの期待どおりに行動し社会人になってからも大手の企業で成功を収めるピーター・キーティング。成功のためなら今まで付き合って自分が一番ホッとできるキャサリンとの結婚の約束も反故にし、突然言い寄ってきた美女のドミニクと電撃的に結婚もしてしまいます。従来あるものをうまく融合させることには長けていますが、オリジナリティがありません。いろんなところでオリジナリティあるロークの設計図を基本に使っては、自己流にまたアレンジしています。ルークはこういった人たちのことをセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)と言っています。そして悲しいかなキーティングは最後には人生がうまくいかなくなっていきます。

「創造的仕事、たった一人で考え働く自己中心主義者に対し、誰かに依存し、強奪、搾取、支配を生むセコハン人間」「創造者が否定され、抑圧され、迫害され、搾取されつつも、前に前に進み自らの活力を人類に与え、進歩させてきたのに対し、セコハン人間は人類の進歩に何の貢献もしてきませんでした」…ロークは貧しい人たちのための公共住宅を作ることが夢であり、そのためならお金も要らない、しかし完全に自分の思い描いたもので作りたいという願っていました。しかしその公共住宅を作る話は当時成功を収めていたキーティングへと依頼が来ます。キーティングは低予算でそんな公共住宅を作ることができません。いつもゴージャスなお金をふんだんに使った建物を設計していたからです。そしてキーティングはロークにやらないかと話を持ち掛けます。ロークにしたら願ったり叶ったりです。無報酬でも引き受けたい仕事なのです。ロークはキーティングに約束させます。自分の設計に一切付け足したり削ったりしないこと。しかし、実際にはキーティングの事務所ではロークの設計に余計なものをつけてしまうのです。そしてその結果、自分の作品ではないものになってしまったと思ったロークはその建物に火をつけ燃やします。そして法廷に引っ張り出され、自己中心主義者とセコハン人間の功罪を述べるのです。

ロークと同じような生き方をしたのはロークが師事したキャメロンや彫刻家のスティーヴン・マロニーでした。彼らは、自己中心主義者たちでした。そして多くの人たちがセコハン人間でした。特にキャサリンの叔父であり、コラムニストのトゥーイは、オピニオンリーダーであり、ロークを社会的に抹殺しようと画策します。自己犠牲を推奨し利他主義を主張し、マスコミを使って人々を操作します。トゥーイ自身がセコハン人間の代表格でした。

訳者の藤森かよこ氏が「「水源」においては、奴隷を必要としない自由で独立した個人と、奴隷によって支えられる支配者という名の奴隷と、単なる奴隷が、数々の戦いを繰り広げる。「水源」とは、このような政治思想小説である」と言及しています。

一方、恋愛小説の部分では分かりにくかった部分がありました。ロークとドミニクの関係です。二人はお互いに好き同士にも関わらず、全然一緒になろうとせず、最後の最後にやっと一緒になりました。特にドミニクはロークが好きなのに、キーティングと衝撃的に結婚し、その後バナー新聞の社主のゲイル・ワイナンドのこちらも急な求婚に即座に応えてキーティングとの籍から抜いてすぐさまワイナンドとの籍を入れ、彼女の本心がどこにあるのか、全く良くわかりませんでした。謎の美貌の女性という感じ。それでも物語の展開としては色んなことが急展開して面白くはありましたが。

皆それぞれの胸の内にあるその信念なり、信条に沿って、好きに生きたらいいなあと思いました。ロークのように生きたければそれもあり、キーティングのように生きたければそれもあり。何でもアリだよ、と私は思いながら読み進めました。

長編なので時間をじっくりとれるときに読むのがお勧めです。


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村上春樹の本 何冊か [本]

ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集

ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/21
  • メディア: 単行本

村上春樹の紀行文集。彼が暮らしたボストンでの野球のこと、マラソンのこと、ダンキンドーナッツのこと。アイスランドでのパフィン(鳥)、温泉、オーロラ、ガソリンスタンドにクレジットカードのこと。オレゴン州のポートランドとメイン州のポートランドのおいしい食事のこと。住んでいたギリシャのミコノス島とスペッツェス島への再訪のこと。ニューヨークのジャズクラブのこと。フィンランドでのカウリスマキの経営するバーと、シベリウスが過ごしたアイノラ荘のこと。ラオスのルアンプラバンのこと。イタリアのトスカナのワインのこと。熊本での漱石の家と万田坑とくまモンのこと。

特に本の題名になっている「ラオス(なんか)にいったい何があるんですか?」とベトナム人に質問されて、その答えのようなもの書いている筆者の答えが、とっても心に響きました。それは私も共感することだからです。

「…僕がラオスから持ち帰ったものといえば、ささやかな土産物のほかには、いくつかの光景の記憶だけだ。でもその風景には匂いがあり、音があり、肌触りがある。そこには特別な光があり、特別な風が吹いている。何かを口にする誰かの声が耳に残っている。そのときの心の震えが思い出せる。それがただの写真とは違うところだ。それらの風景はそこにしかなかったものとして、僕の中に立体として今も残っているし、これから先もけっこう鮮やかに残り続けるだろう。それらの風景が具体的に何かの役に立つことになるのか、ならないのか、それはまだわからない。結局のところたいした役には立たないまま、ただの思い出として終わってしまうのかもしれない。しかしそもそも、それが旅というものではないか。それが人生というものではないか」

どの紀行文も面白かったし、もともと彼の文章が好きなので何でもOKだったけれど、特にラオスの紀行文は時間の流れ方が違うためか、はたまた仏教国でたくさんのお坊さんたちの姿を目撃しているためか、思考が内に向かっていて、含蓄ある言葉がたくさんあってより惹かれました。旅は色んなことを見聞きし新しいことを発見していろんな気づきの場でもあるけれど、その気づきのようなものがこのラオスの紀行文にはたくさんあった感じがしました。それがとっても面白かったし、私にとってはこの本を読む意義みたいなものなんだなあと思いました。

まだまだ世界には知らない世界が広がっていて、私ももっと見てみたいなあと思いました。いつかまた出かけたいです。

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 単行本



読んでいてとってもゾクゾクするような内容でした。やはり村上春樹が評価されるには評価されるに値するものがあるのだ、と心底思いました。そして彼が考え行動してきたことがまた脱帽だなあと思えたりもしました。だからこそ評価され売れているのだなあと。そして私が村上春樹の作品が好きな理由もわかるいくつかの彼のエピソードが載っていました。

ジャズを聞けるお店をやっていたのは知っていたけど、銀行に返すお金がなくうつむいて歩いていたら、銀行に返すお金ときっかり同額のお金が落ちていてそれで支払いできたこと(「僕の人生にはなぜかときどきこういう不思議なことが起こります」「シンクロニシティといえばいいのか、何かの導きと言えばいいのか…」というエピソード)とか、神宮球場でヤクルトの試合をのんびり見ていて選手がヒットを打った時に、「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と思ったこと。(「ひとつの啓示のような出来事が起こり」「新鮮な感覚を持ちで」、「わくわくして」最初の「風に歌を聴け」を書いたとのこと)英語のエピファニー(epiphany)~「ある日突然何かが目の前にさっと現れて、それによってものごとの様相が一掃してしまう」体験のこと。彼はこの体験をして作家になりました。そして初めて書いた「風に歌を聴け」が群像の新人賞の候補に挙がったことを知ったとき「そのときにはっと思ったのです。僕は間違いなく群像の新人賞をとるだろうと。そのまま小説家になって、ある程度の成功を収めるだろうと。すごく厚かましいみたいですが、僕はなぜかそう思いました」と。こういう体験は他人事ながら私自身ワクワクです。こんな体験をしたら神様に作家になるよう背中を押されたも同じだなと思いました。こんな体験をしている作家だからこそ、私も好きなんだなと何だか目から鱗でした。

また原稿は何度も何度も読み返してもうこれ以上書きなおしがないと思えるところまで書きなおしをしていること。(当初は英語を書いてから翻訳するように文章を書いたらしく、リズムを大切にしているとのこと)作品一つ一つを出すごとに作家としてのチャレンジを様々に行い(一人称から三人称を取り入れること、日本がバブルで浮かれているころ、アメリカに出て行って自らの作品を広めるための努力をしていたことなど)それなりの努力を積み上げ、まさに精進しているその姿が読み取れました。どんなに調子が良くても悪くても一日に必ず10枚の原稿用紙を書くことを決め、マラソンすることで、ある種の「悪魔祓いをする」こと。コツコツと努力していたら神様が放っておくはずないなあとも思いました。また学生時代からやはりたくさんの本を読んでいて、しかも原書での本もかなり読んでいるようでした。それは作家となり、翻訳することにもつながり、海外生活を送ることにもつながります。何だかすべてがつながっているんだなあと彼の人生を見ていても思いました。

私にとっては「羊をめぐる冒険」が初めて読んだ村上作品でした。そしてそれが今でも一番好きな作品です。そしてこのときこの作品が彼にとっては初めての長編小説でした。集中して書くためにそれまで経営していた店をたたみ、専業作家となり、早寝早起きの生活を送り、体力の維持のためランニングを始めたとのこと。店からの収入のほうが大きかったのに、「もう後戻りできないように橋を焼いてしまった」というその潔い決断。まさに天晴だなあと思います。

また何より大切なこと。「文章を書くときの気持ちよさ、楽しさ」を言っています。楽しくて気持ちいいからやっているという姿勢。今まで文章書くのに苦しんだことがないと言っています。自分の中が満たされ出てくるまで待っていて、自分の奥底まで降りて行っていくらでも書けるというのです。まさに天職なんだなあと思いました。

楽しくて気持ちいいことを大切にし、またシンクロニシティやエピファニ―のような体験も大切にしている。だからこそ、私は彼の作品にこんなにも惹かれるのだなあと納得したのでした。何だかこの本を読んでますます村上春樹が好きになりました。彼の作品に巡り会えて幸せです。

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/04/28
  • メディア: 文庫

雑誌アンアンに載せたエッセイをまとめた第三弾。気軽にアッと読めてしまいます。肩の力を抜いてリラックスして。たぶん筆者が楽天的な感じなのでこうやってこちらもリラックスしながら読める。それがとっても心地いい。しかも好きな文章なので。

最後の「今日の村上」に書かれた一言が、つぶやきシローのエッセイの最後に「結局僕が言いたかったのは…」を思い出させ、毎回何故か笑えてしまいました。まあ「今日の村上」は全然まとめて言いたいことではないので本文のエッセイの中味と違って当然なのですが、エッセイの中味と「今日の村上」の開きがあればあるほど、このつぶやきシローのエッセイ本体と彼が書く最後の、実は内容を全くまとめていない「結局僕が言いたかったのは~」を思い出させてくれて笑わしてくれました。両方とも能天気な感じが、きっと楽しいのかもしれません。


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